「蜘蛛の巣屋敷」(横溝正史)

お役者文七捕物暦

おどろおどろしさ満開、これぞ横溝長篇捕物帖

「蜘蛛の巣屋敷」(横溝正史)徳間文庫

棚倉城主、勝田駿河守の
上屋敷に現れた曲者は、
「土蜘蛛の精」と名乗って
姿を消す。
婚礼を控えた一の姫の
身を案じた局が
寝所へ踏み入ると、
そこには夢うつつとなって
身悶えする一の姫の
嬌態があった。
現場に居合わせた文七は…。

横溝正史といえば、まずは
金田一耕助、そして次は
由利麟太郎&三津木俊助コンビ
さらには時代物で
人形佐七と、人気を集めています。
その影に隠れてしまい、
忘れ去られようとしているのが
「お役者文七」です。
キャラクターとしては
人形佐七と大きな違いはないのですが、
佐七ものが
短篇(なんと180篇!)であるのに対し、
文七ものは
長篇作品となっているのです。
その第一作を読み終えました。

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【主要登場人物】
勝田直輝
…勝田家当主。
輝姫
…直輝の一の姫。
 土蜘蛛の精に陵辱され、自害。
清姫
…直輝の二の姫。
 輝姫に続き、土蜘蛛の餌食となる。
振姫…直輝の三の姫。
千代君…直輝の嫡男。十歳。
笹の前…直輝の妻。
篠の井
…勝田家上屋敷奥御殿を預かるお局。
 勝田家に対し忠節を尽くす。
土蜘蛛の精
…土蜘蛛党党首。
 先代の恨みを晴らすべく暗躍する。
滝川
…勝田家お女中の一人。二の姫の乳母。
天英院
…直輝の異母兄・直方の未亡人。
大日お上人
…怪しげな有髪の修験者。
 天英院を手懐ける。
丹沢大五郎
…怪しげな浪人。土蜘蛛の精の手下。
錨屋五郎兵衛
…勝田直正(直輝の父)に惨殺された
 土蜘蛛党のかつての長。
水野和泉守忠之…老中筆頭。
水野万太郎忠信
…水野家嫡男。
 勝田家の三人娘に惚れ込む。
大岡越前守忠相
…南町奉行。名奉行として名を馳せる。
池田大助
…南町奉行所公用人。忠相の腹心。
 文七とは真柄道場の同門。
だるまの金兵衛
…大根河岸の御用聞き。
 転がり込んできた文七の面倒を見る。
お吉…金兵衛の女房。
お小夜…金兵衛の娘。文七を慕う。
雁八…金兵衛の手下。
真柄十太夫
…京橋浅蜊河岸の道場を営む武芸者。
 文七の剣の師匠。
板東三津次(彦三郎)
…文七の師匠。親代わり。
 女形の役者。雅号は薪水。
喜久松…文七を慕う狂言師。
板東簔次
…男形を演じていた狂言師の娘。
 正体は文七。
文七
…かつての人気役者。
 勝田家と何らかの縁がある。

本作品の味わいどころ①
おどろおどろしさ満開、
これぞ横溝長篇捕物帖

昭和32年(1957年)発表の本作品、
おどろおどろしさ満開です。
同年には
「金田一耕助の冒険」に収録されている
作品群や「悪魔の手毬唄」
「貸しボート十三号」など、
金田一耕助シリーズが立てつづけに
創作された時期であり、
当然本作品にも横溝の後期作品の
筆の冴えが十分に見られるのです。
当主の三人の美女姉妹が
次々と魔の手に落ちる設定、
当主とその姉の確執、
媚薬を用いる謎の怪人・土蜘蛛の精、
勝田家と土蜘蛛党との怨念渦巻く関係、
どれ一つとっても
横溝テイストが漲っています。

本作品の味わいどころ②
捕物帖というよりも大冒険、
行動派文七の魅力

何といっても本作品の魅力は
探偵役・お役者文七の
キャラクターにあります。
「年のころは二十二三、
 さかやきをながくのばして、
 いっけんやくざと思える風態だが、
 その男っぷりのよいことといったら、
 文字どおり水も垂れんばかり」

それが元女形の役者なのですから、
現代的(令和的・ユニセックス的)な
美青年なのです。
しかも、すべてを見通して
悪人を一網打尽にするような
天才的な探偵役ではありません。
一歩間違えると命を落としかねない、
ハラハラドキドキの
冒険の連続なのです。

本作品の味わいどころ③
多彩な登場人物群、
華々しく文七シリーズ開幕

そして本作品は実に多彩な登場人物を
抱えています。
文七を支える面々として
三津次、十太夫、金兵衛、雁八、
文七を慕う少女に
喜久松とお小夜を配し、
筋書きを盛り上げています。
また、
老中水野和泉守忠之や
大岡越前守忠相といった
実在の人物(かつTVの時代劇で
おなじみの人物)を挿入し、
筋書きに立体感と現実感を
織り交ぜることに成功しています。
まさに文七シリーズの
開幕にふさわしい豪華キャスティングと
なっているのです。

本書は1957年の雑誌連載の後、
1959年に単行本化、
そして2002年に徳間文庫から
再刊行されました。
このときはおそらく
横溝生誕100年と没後20年記念の
出版だったのではないかと思われます。
この素敵な作品群が、
なぜ今年新装版として
復刊しなかったのか、
理解に苦しみます。
今からでも遅くありません。
新装復刊をしてほしいと思います。

(2022.8.5)

251206によるPixabayからの画像

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